トルシエ監督とエンパワーメント
鴨志田 栄子
ワールドカップでは、久しぶりに国民の盛り上がりが見られました。サッカーに普
段興味が無い人までをも巻き込み、また、子供から大人まで、家族全員で楽しめる時
間を作り出してくれました。
惜しくも日本チームが負けた翌日19日の朝日新聞の朝刊の1面にトルシエ監督につ
いて興味深く解説されていました。
********** 戦う「人間」育てたトルシエ監督 朝日新聞2002.6.19 ************
(略) 攻撃サッカーを目指した。多くの選手が次のパスなどを予測して連係して動
く攻め。オフサイドトラップで相手を牽制し、積極的に相手の球を奪い取る守備。攻
守ともに組織で勝負した。しかし、トルシエ監督は戦術以上に戦う人間を育てること
を追及した。「選手は機械の一部のように扱われることに甘んじてはいけない」と
言った。「人間としての力」を重視し、「自分に責任を持て」と言い続けた。(略)
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テレビでも「自立心と自分で判断できる力を...」といい続けた監督のことが
多々紹介されています。これは、企業にたとえると、監督が経営者で選手は従業員で
あり、まさしく、エンパワーメントのことに匹敵する話ではないでしょうか。監督
は、欧州の選手と比べて、自分で判断して、自分に責任を持ってプレーをする姿勢が
弱い、それを克服すれば、欧州に通用する選手となると言っていました。
エンパワーメント、それは、まさしくお客様に接している現場の従業員が、自分の
判断と責任で自分のサービスを提供できる環境のもとに実現するものです。それを実
現している企業は、CS(Customer Satisfaction:顧客満足)優良企業と賞賛されてい
るところが多いです。その一つにディズニーランドがあげられます。「ディズニー7
つの法則」を読むと、ディズニーがキャスト(従業員をこう呼んでいる)をとても大切
にし、そしてキャストへのエンパワーメントが行われていることがわかります。CS
を実現している企業には、必ずES(Employee Satisfaction:従業員満足)がありま
す。このESをもたらす要因の一つがエンパワーメントです。
たとえば、買物先で、店員に商品価格に含まれないサービスをお願いしたとしま
す。その時、店員が店長に相談しに行き、店長が出てきて、再度同じことをこちらか
ら説明して受けた場合のサービスと、店員の判断により即決でサービスを受けたとき
では、どちらが気持ちよく買い物ができるでしょうか。後者の方がはるかに気分よく
買物ができます。まさにエンパワーメントの一例と言えます。
消費者として行動したときに受けた喜びでも、立場が変わって企業人となると、行
動になかなか移せないものです。エンパワーメントは、権限委譲と言うよりも裁量権
を拡大したもので全権委任に近いものであり、組織において容易に実現できることで
はありません。最近は労務管理の分野で自律した人材を育てるための質問を中心とし
た新しいコミュニケーション手法である「コーチング」が話題になっています。自主
的に考えて行動する人材、創造性豊かな人材を育成していかなければ、企業は競争に
生き残っていくことができないという点で、エンパワーメントと共通しています。い
ずこの企業からも聞こえてくるのが、言われたことだけをやる、受身の姿勢の従業員
が多いとの声です。それに対して「エンパワーメント」を考える上で、今回のワール
ドカップから学ぶところはとても大きいと感じます。「トルシエ監督だからできるこ
とだ」と思ってしまったら、何も発展はありません。部下を持つ方は、少しでも、彼
らが、どうしたら、自己判断で責任を持って動けるようになるかということを日々、
考えていくきっかけとなることを願っています。
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