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「行政にもCSを」  

 
三原 文乃
 

 1年半前に夫が急逝し、我が家は母子家庭になった。こうなってみて はじめてわかったのだが、母子家庭には各自治体でさまざまな手当や 助成がある。その中でも、小さい子供がいる我が家にとって、ありがたい のは、医療費の助成である。私が住んでいる市では、自己負担から 入院については1日300円、通院については1診療(調剤)1000円を 控除した額を助成してくれる。
 元来、何事も切羽つまらないとできない性格なので、医療費助成の申請が 1年間有効なのをいいことに、半年くらいためてあちこちの病院に行き、 申請書を大慌てで出すことになる。そのため、何枚か1000円に満たない ものがあったりして、申請後に市役所から返送されたりすることになる。
 あるとき、市役所からこの申請書が返送されてきた。この金額では助成 できませんという文書とともに申請書が1枚入っていた。しかし、よく見ると まったくの別人の申請書である。この申請書は、保護者、子供の住所、氏名、 年齢、生年月日、保険証番号、診療内容、銀行口座番号とプライバシーに かかわることばかりが書かれている。一体、私の申請書は誰の手に渡って いるのかと、不安と怒りのため、すぐに市役所に電話した。
以下がその時の市役所とのやりとりである。
 私: 「医療費助成の申請書、まったく違う人のが返送されているんですが、
     私のはどこに行っているのか、調べてください」
市役所:「すいません、すでに2、3人の方から別人のが返送されていると
     お電話をいただいています。お宅様のもどこにいったのかわかりません」
 私: 「わからないって、申請した人の中で返送した人なんて、そんな何十人も
    いないでしょう。それにその月に申請した人なんて、すぐに調べればわかる
    んじゃないですか」
市役所:「すいません。連絡があった人が送り返してくれないとわかりません」
 私: 「でも、これってかなりプライバシーに関わるものですよ。」
市役所:「でも、わかりません。すぐに返信用封筒を送るので、
     送り返してください」
私:「わかりました。私のはどこにあるか調べられないということですね」

 なんだか、話しているのが疲れてきて電話を切った。2日後、返信用封筒が
送られてきた。中にお詫びの文書でもと思い封を切ると、細い付箋に
『すいません、よろしくお願いします』と書かれているだけだった。
 もし、これが企業だったらどうだろうかと、ふと思った。おそらく、電話の時点で
『すぐに調べて、折り返しお返事します』という対応をするに違いない。また、
文書にしても、きちんとしたお詫び状を出すことになると思う。
 行政サービスも充実してきていると言われるが、このような対応をしている
市役所は、およそCSとは程遠いところに位置している気がする。
 市民が安心していろいろな手続きを受けられるのが、行政の果たすべき
仕事ではないだろうか。それから何日か後に、私の申請書は当然のように、
それだけ1枚入っただけで返送されてきた。