キャリアを考える
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高橋 輝子

2005年が明けた。
この節目の時期というものは、過去の自分自身を振り返り、思い通りにならなかったことを痛感しながらも、今までの自分をリセットし、新たな気持ちでスタートできる唯一の時期でもある。だからこそ、これから始まる一年が、自身のキャリアを形成する上で意味ある有意義な一年にしていきたいと人は願う。
そこで、今日のキャリア概念に大きな衝撃を与えたハーミニア・イバーラ(注1)の理論を紹介しつつ、キャリアについて考えてみたいと思う。
そもそもキャリアとは何か。アメリカの心理学者であるスーパー(注2)によると、『人生を構成する一連の出来事であり、職業生活やその他の役割生活の連鎖であり、自己の成長を促進させる全ての要素である』といっている。キャリアとは仕事を通してのみ得られると思われがちだが、それ以外の要素からの影響の方がむしろ大きいともいえる。
では、どのようにキャリア開発をおこなっていけばよいのか。伝統的な考え方では、@深い自己理解、A自分の理解者への相談、B野心的であることなどが一般的であった。しかし、イバーラの考えは真っ向からこれを否定している。
@本当の自分探しを深追いせず、実地に試す機会を探すこと A自分をすでによく知る人ではなく、新しい人に相談すること Bキャリアに野心ではなく、意味を与えること
この考え方は私にとって新境地を与えてくれたと同時にとても共感できる内容でもあった。天職という言葉があるが、果たしてどれだけの人が従事できているのであろうか。勿論、胸を張って言い切れる人もいるだろう。ある意味、とても幸せな方である。だが、多くの場合、ある程度は満足しながら、または妥協しながらも、このままでいいのだろうかという焦燥感にかられながら目先の仕事に追われた日々を送っている人が多数派ではなかろうか。
そこで@の自己理解の作業が生じるわけだが、本当の自分探しを追求するあまり、なかなかぴったり当てはまる解を見いだすことが出来ず、結果的に何も行動を起こすことができなくなってしまったり、自分探しと現状からの逃避が区別できなくなり転職を繰り返してしまったりするケースをイバーラは指摘しているのだ。
Aについては、ネットワーク分析を研究している安田雪氏(注3)も『仕事であれプライベートであれ、固定的で閉じた人間関係は結果として気楽ではあるが人々の視野をいっそう狭くし同質的にする』と述べている。自分と意見の合う人、自分を認めてくれる人たちの間は確かに居心地がよい。しかし、それは何人仲間がいようと皆が似通った社会生活をしており、同じような情報、発想、機会しかもたない。自分にとっては遠くの有能な人たちほど新たな価値観や思考法をもたらしてくれる。新たな人脈づくりの重要性を訴えている。
Bは、もっとも日常的な活動と捉えることが出来るのではないか。キャリアが野心的であるならば、それは、例えば、より上位の役割に就くことであったり、新しい企画的な仕事をすることであったりと考えがちである。それはそれでキャリア開発には役に立つであろうが、非日常的であり、そうたくさん遭遇できるわけではない。それよりも、一つひとつの地道な行動や偶然の出来事などをどう自分のキャリアとして意味づけできるか、前向きな姿勢で取り組むことが出来るかが重要なのである。
新しい節目のこの時期、どんな自分でありたいのか、どんな人生を創造したいのか、自分自身を見つめなおしキャリアビジョンを確認するなかで、能動的、実践的、日常的な行動を展開したいものである。
(注1)Ibarra,Harminia:ハーバード・ビジネス・スクールで13年間教鞭をとったあと、2002年よりINSEAD(欧州経営大学院)の組織行動学の教授である。
(注2) Super,Donald E.:キャリア研究に関する一人者。1950年キャリア発達理論、キャリア類型に関する研究を発表している。
(注3) 安田雪:東京大学大学院経済学研究科 特任助教授。コロンビア大学大学院博士課程修了。GBRC社会ネットワーク研究所長。
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