TOPICS35  もどり

☆タイトル・「会社人間 社会に生きる」を読んで。
(資生堂会長 福原義春著 中央公論新社刊)
 
森 秀男



----------------------------------------------------------
最近読んだ書籍の中で、とても感動し、多くの示唆が得られた本を ご紹介します。「座右の書」の中の一冊にしたいと思っています。

著者は長年にわたる経営から得られた、貴重な体験や教訓を実に分 かりやすく語っています。社長時代には、社内の大きな改革を断行 されて経営を軌道に乗せ、「企業文化」を経営資源として積極的に 活用されたり、資生堂ブランドを国際的なレベルまで育成されまし た。

また、著者はランの花の愛好家で、鎌倉ラン友会という団体の会長 を12年間もされました。そのラン栽培から、多くの経営のヒント を得られています。

-------------------------------------

著書の中から、特に印象に残った箇所の要約を挙げてみます。

■私の基本姿勢は「誰とも争わない。誰からでも何かを教えていた だく」というものです。

■目立たず、おとなしかった私は、今、幼い頃のクラス会や友人から 「弱むしだった君が、どうしてこうなったの?」とよく聞かれる。私 は「中庸の道」を地味に着実に歩いたので、このように残ることが出 来た、と話す。小学校時代の成績トップの人や体力のあった人達は、 もう退職したり亡くなったりしている。

■レコードにA面、B面がある様に、人も自分の本来の仕事(会社勤務 など)と、ボランティア活動との両立、あるいは自分の趣味を持つと、 両者が共に活きてくる。

■「幸せと不幸」は、常に二人連れでやって来る。

■「男性のタテ系列と、女性のヨコ系列」を組み合わせて、男女共同参 画をしてゆくことが、企業では大切である。

■小学校以来、私は常に「本質や人生を教えてもらえる先生や先輩」と接 して、自分もそれを吸収して取り組んできた。

■自分が「無欲、無色」であるように努め、物事に固執しなかった。自分 が「無私」であるから、次々と社内の大改革に乗り出せた。

■ものごとの奥の「原理・原則」を求めて、組織運営や、会社と社会の関 係を追及し続けた。

------------------------------------------------------

実は、私は、3〜4年くらい前に、著者に直接お会いして言葉を交わす機 会がありました。資生堂ザ・ギンザのギャラリーで行われた、あるトーク・ セッションの会場です。聴衆として参加した私も、発言したり質問をしたり した直後のことです。そこに著者もお見えになっていましたので、私は名刺 を差し出し、挨拶してからこう申しました。「会長の以前の著書である「多 元価値経営の時代」を読み、とても参考になりました」と。

すると福原会長は、全く予想外の発言をされました。「会長と呼ばないで、 さん付けで読んでください」と言われたのです。後で知ったことですが、資生 堂の社内では役職で呼ばないで、すべてお互いに「さん付け」で呼ぼうという 運動を、福原氏の主導で進めておられたのです。

私は大変に驚きましたが、ご本人が目の前でこう言われるので、少し緊張しな がら「では、福原さん、と呼ばせていただきます」と言ったことだけは覚えて いますが、キットかなりアガっていたのでしょう、その後の会話は思い出せま せん。

さらに「福原さん」は、そばに控えていました秘書らしき方に、こう話されま した。「間もなく出版される私の新しい本を、この方に、送ってあげて下さい」 と。

私は、ふたたび大変驚きました。まったく初めてお会いする、大会社の経営者 に話せただけでも光栄であったのに、その上、新刊の著書まで送ろうと言われ るのです。しかし、私は本気にしていませんでした。キット外交辞令であろう、 と半分決めつけていました。

すると、1週間位したら、郵便受けの中に、なんと本当にその本があったので す!

その時、私はある種の畏怖に満ちた尊敬の念を禁じ得ませんでした。人間が本 当に円熟して来ると、ここまで到達できるのか、と。そして、私は自分に置き 換えてみて、この様な福原さんの態度と行動を、果たしてとれるだろうか、と 本当に考え込んでしまいました。