TOPICS 172 BACK

秘湯と呼ばれる温泉郷を訪ねて

     日野 春代





 紅葉シーズンの喧騒も終わった11月の半ば、鬼怒沼湿原に登り、奥鬼怒温泉郷にある日光沢温泉に2泊した。奥鬼怒温泉郷は日光国立公園にあり一軒宿の八丁の湯、加仁湯、日光沢温泉、手白沢温泉がある。東武鬼怒川温泉駅からバス2時間で夫婦淵へ、そこから山道を徒歩で1時間半。最奥の手白沢温泉へは2時間ほどかかる。
  ここは山歩きの人たちのための山小屋温泉であったようだ。昭和63年に電化され温泉旅館になり今にいたっている。奥鬼怒スーパー林道(紆余曲折の末、平成3年に開通したが、自然保護のため一般車両は通行止め)ができ八丁の湯と加仁湯の宿泊客だけはマイクロバスの送迎がある。
  原生林の大自然の中、お湯自慢でお風呂も各種あるという条件は全く同じなので比較しつつ秘湯について考えてみた。

八丁の湯:昔の面影を残しながらもカナダから輸入した本格派のログハウスが何棟もある。この秘境にログハウス?というのが率直な感想である。しかし古い建物・浴槽も残しそれなりの雰囲気を醸し出している。ファミリー、グループ向き。
加仁湯:何でもありの熱海の温泉ホテルと変わらない。玄関には旅行会社、パックツアーのシールがずらり。そして○○ご一行様、○○ツアーご一行様の看板も。玄関には送迎のマイクロバスがまたずらり。脱衣所などは手が行き届かない感じもした。 団体向き。
日光沢温泉:昔のスタイルをかたくなに守り続けている山小屋旅館。素朴な浴槽に溢れているかけ流しのお湯以外何もない。テレビなし。暖房はホームコタツ。食事は囲炉裏を囲みいただく。木造の建物は相当古びてはいるがよく磨かれ清潔感がある。お風呂はカランや石鹸の類もない。団体お断り。かなりな秘湯・お湯愛好家向き。
手白沢温泉:6年前に立替え、すっかり様変わりしたようだ。宿泊客は一日6組だけ。シェフの作るフレンチ懐石、宿泊料は1万円から4万円。日帰り客お断り。ここは私の趣味ではないので行かなかった。2時間歩いていくこだわり派向け。
と4湯とも非常に特色のある、個性豊かな温泉である。それぞれうまく棲み分けているところが見事である。

  最近は秘湯を売り物にした温泉も多いが、私はかけ流し、24時間入浴可能、1件宿、浴槽、周りの環境、交通の便、お湯を大切にしているか・・・などなどで秘湯度を決めている。私の基準では日光沢は5点評価で5。主によると、木造・板張りの廊下などは防災面や衛生面から問題だとお役所から建て替えを迫られ、さらに跡継ぎ問題や保守の問題など維持していくための問題は山積しているそうだ。このようにして昔ながらの特色のある温泉場が時代とともに退場していくのはとても寂しい思いがした。
  温泉の楽しみ方は人それぞれ。その時の気分やメンバー、目的などで選ぶと良いと思うがお湯や雰囲気などは大切にしたい。良い温泉を育てるのも消費者次第と言えなくもないだろうか。
  日光沢で出会った宿泊者や経営者と親しくお湯や秘湯談義ができた晩秋のお湯巡りだった。