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懐かしい旅の想い出:ホテルのトラブル体験記
 

田中 慶篤

 

1)よみがえる記憶

皆さんはホテルというと何を連想されますか?今までの旅行で、或いは会社の出張で利用したホテルではどんな想い出が残っていますか?私にとってのホテルは、短期滞在、長期滞在に関わらず、ひと時の非日常的な空間だと思っています。特に旅行をする場合、ホテルの選択は計画の段階から重要なアイテムのひとつではないでしょうか。もうずいぶん過去のことになりますが、旅先で宿泊したホテルで驚愕のトラブルを体験したことを思い出しました。

最近、NHKテレビBS2の番組でニューヨークを舞台にした映画特集で、ウディ・アレン主演「マンハッタン」とリチャード・ギヤ主演「オータム・イン・ニューヨーク」を観る機会がありました。ニューヨークでミッドタウンと呼ばれる5番街、ブロードウエイ、ロックフェラーセンター、紅葉のセントラル・パーク等の映像と共に、以前、ニューヨークを旅行した時に宿泊した6番街にある○○○○ホテルもスクリーンに映し出されていて、映画のストーリーもさることながら、懐かしさからこれらの場所にも目が釘付けになっていました。この○○○○ホテルは日本でも有名過ぎるほど有名で、東京ベイ・○○○○は石の森章太郎原作のテレビドラマ「ホテル」のロケ地にもなったほどです。

私の体験したトラブルの始まりは、このホテルに宿泊して、駐在地のカナダに戻った数ヵ月後に起きたのです。その当時はもちろんですが今思い出しても、世界的に有名なあのホテルがどうしてあのようなミスをしたのか、不思議でならないのです。

 

2)ビックリ仰天のインボイス・レター

 ニューヨーク旅行から数ヵ月後、カナダのCIBC銀行から自宅に届いたインボイス・レターの封を切って請求明細書をチェックしているうちに、心臓が止まるほどビックリしました。カナダの場合は日本と異なり、クレジット・カードの支払いや公共料金等の支払いはダイレクトに銀行口座から引き落とされるのではなく、カード発行元の銀行からインボイス・レターが送られて来るのです。そのレターに記載されている個々の請求明細を確認してから、小切手に支払いの金額を書きサインをしてから、銀行に郵送して初めて引き落とされる仕組みになっています。または銀行の窓口に行って小切手を書き、支払うことも可能です。

 その時、請求明細書に何と2,500USドルの請求額が記載されていました。請求元は先に滞在したニューヨーク・○○○○になっていました。私は日系の旅行代理店である○○日本ツーリストのトロント支店で、家族4人分のホテル代と航空料金を含んだクーポンを利用していたので、レストランの利用時にルームチャージした以外は払うべきものは何も無く、それもチェックアウト時にクレジット・カードで支払いを済ませました。

 しかも、2,500USドルという金額は航空料金を含んだクーポンより1,000USドル以上高く、二重請求でもなく私の宿泊とは全く関連のない請求金額であった。それで、これは単純なホテル側のミスだからツーリストに電話すればすぐに解決し、銀行の請求書も訂正されて来るであろうと安心していました。

 翌朝ツーリストに電話をかけ、数ヶ月前に宿泊したホテルのミスによる銀行からの請求書が届いた旨を説明して、早速ツーリストからホテル側に訂正を求める電話をしていただきました。ツーリストの担当者はカナダ在住歴が長く英語も堪能なはずなのだが、ホテルのフロントの日本人女性とだけ連絡をとったようでした。ツーリストからの連絡では、フロントの日本人女性曰く、「請求書の発行元は経理なので、自分は何にも出来ない。何故ならば、フロントと経理は組合が別々だから。」ということであった。なるほど、アメリカの企業はそうかもしれないと自分自身も思いました。それ以後、ツーリストは何度電話しても同じことを繰り返すばかりで、解決へ向けた進展が感じられないような気がしました。

 それで、銀行の引き落としの期限も迫っていたので、私は「ホテルの請求金額は思いあたりが無く、間違いであるからホテル側に連絡して取り消して下さい。」という内容の手紙を書いた。すると、数日後、銀行から手紙が来て、「ホテル側との交渉は出来ないが、当分の間引き落としを保留する。」旨の内容だった。

 いろいろやりとりしているうちに、また会社の長期連休が来たので、どういうわけか再度ニューヨーク行きを思い立ち、しかも同じホテルを予約したのだった。自分で何とかしようと思ったのであった。当然、出発の前には請求書等の資料を全て整理して、片言英語でも相手に伝えられるように準備をした。

ニューヨークのガーディナー空港に到着して、ホテルに向かうオンボロのイエローキャブで乱暴な運転をするドライバーに対してもあまり気にする余裕も無く、ホテルについてからのことをあれこれと考えをめぐらせていた。ホテルに着くなり、チェックインをする前に、フロントの日本人女性らしき姿を発見し、近づいて話してみると確かに日本人であった。そして私がこのホテルに来た理由を説明すると、ツーリストからその件については何度も聞いているが、自分には何にも出来ないことを告げられた。それなら経理に案内して頂き、担当者に説明していただけませんかと頼み込んだ。すると彼女は、今は忙しいので、昼からにしてもらえないかと言われたので昼食後フロントで会う約束をして別れた。

ところが午後、フロントには彼女の姿が見えなかった。しばらく待ってみたが、なかなか現れないので、他のスタッフに尋ねたら、「彼女は昼から家に帰ってしまった。」と言われ呆然としてしまった。しばらくして気を取り直し、インフォーメーションでコンセルジュを紹介してもらった。コンセルジュに請求書のトラブルの内容を説明したら、ホテルの2階の一角にある経理オフィスを案内され、担当の女性に引き合わせてくれた。

私は語学の不足を補うために事前に整理していた資料で、必死に請求書の間違いについて説明した。彼女は、初めは鼻から自分にはミスなどないという態度であったが、私が差し出した銀行の請求書などを見てから、しばらくして机の引き出しから資料を出して調べていたようであった。そして、ミスをやっと確認したようで、銀行に取消し依頼をする旨のことを告げて、金額等が記入された2枚のメモを私に手渡してくれた。その時、自分がどんなことを彼女に話したのか、またメモの内容も今ではさっぱり思い出せないが、とにかく請求書のミスを理解してくれたんだと確信して、経理のオフィスを後にした。

翌々日、カナダに戻り手渡してもらったメモのコピーを銀行に郵送し、ツーリストにもFAXしたのであった。確か1週間後に請求書の訂正の通知が銀行から届き、やっと安心した。

 

3)トラブルからの脱出と残る謎

しかし、何もかも解決したと思い込んでいたトラブルは、実は解決していないことが思い知らされた。それは、さらに数ヵ月後、銀行から再度2,500USドルの請求額がインボイス・レターに記載されていたからだ。とりあえず、ツーリストの担当に電話でトラブルの内容を連絡したが、相手もただあきれ返っている様子だったが、とにかくホテル側に話をする約束だけはしてもらった。

それで、ツーリスト経由では解決しないことを何となく察知して、駐在先の会社の総務で日本やアメリカへの出張者の航空券やホテルの手配を担当しているジェニーさんという女性がいたので、ダメを承知で彼女に話してみようと思いついた。彼女はブロンドの髪を腰まで垂らし、透き通るような青い目をした素敵な憧れの女性であった。彼女に銀行からのインボイス・レターを見せ、これは自分に心当たりが無いのに、2回も来た事を説明した。すると彼女はブルーの瞳を一瞬曇らせて、請求書のレターを片手にホテルに電話をかけ、厳しい口調で一言二言相手と話をして電話を切った後、にっこり笑って、「もう大丈夫です。」と言った。

その時、私はジェニーさんが本当の女神に思えてしまうほど、全身の輝きを感じたのであった。

その数日後、ホテルの請求書を取り消した旨の通知が来て、帰国するまでの2年間そのような請求書は2度と来ることは無かった。

しかし何故そのような間違いがあったのか、依然としてその真相が分からないまま、謎として残っている。今思うと、ジェニーさんはあの時ホテルにどんな話をしたのか、またどのような経緯でトラブルに至ったのか、理由を聞いておくべきだったと痛感する次第である。

 

4)複雑な気持ち

現在、私が○○○○ホテルに抱く気持ちはこのようなトラブルを経験しながらも、やはりすばらしい世界を代表するホテルだと思っている。あのトラブルは、何かのミスマッチが重なって飛行機がエアーポケットに落込んだ状況と同じではないかと思われてならない。

もしいつか、ニューヨークに旅行する機会があれば、少々無理をしてでも○○○○ホテルにせめて一晩だけでも泊ってみたいと思う次第である。

不思議なことに、数週間前のことであるが○○○○ホテルの関連会社と思われる東京支店からDMが来ており、東京○○○○ホテルでバケーション・オーナーシップの説明会が行われるとあった。