私は、自動車メーカーのお客様相談室に勤務して13年目になります。時には怒っ
たお客様からクレームのお電話を受けることもあります。クレーム応対の中で
「なんで自分がこんなことを言われなければならないのだろう」とイライラした
り、「お客様にあんなことを言われたくらいで、なんでカチンときてしまったの
だろう」と思ったりしたことがありました。そんな時は、会話を上手くリードで
きず、自分で納得のいかない応対をしてしまい、自己嫌悪に陥ることもありまし
た。
このような状況にならないために、“自分はどうしてイライラするのか”を、最近
学んでいる心理カウンセリングの観点から考えてみました。以下に、私が実践し
ている“イライラを静める3つの方法”をご紹介します。
@第1の感情に共感することを忘れずに
怒りの前には必ず第1の感情があり、怒りはその次にしか出てこない第2の感情
なのです。第1の感情とは、「期待、心配、恐怖、不安、悲しみ、寂しさ」等で
す。初めから怒っている人はいませんし、人が怒るには理由があるのです。
たとえば、商品やサービスに対する“期待”が裏切られて怒りとなり、その怒りが
頂点に達して、お客様相談室にクレーム電話となってかかってきます。「お客様
がお怒りになる背景には、“期待”や“不安”等がある」と頭では分かっているつも
りでした。しかし、日々の業務の中で、その当たり前のことを忘れてしまう時が
あったのです。それは怒っているお客様が発する『カチンとくる一言』や『配慮
のない言動』に振り回され、応対している自分がムカッときたり、イライラした
りしてしまった時です。その結果、怒りの前にある第1の感情に共感できなくな
り、お客様の気持ちに配慮したお声がけが十分に出来ていなかったのです。
この第1の感情を意識してからは、怒っているお客様の本意を探り、共感するこ
とに集中しています。そうすると、感情を込めて「それは大変でしたね。ご迷惑
をおかけし、申し訳ございませんでした」と、今までより素直に言えるようにな
り、応対をリードできる割合が増えました。
Aお客様相談室は「ありがとう」という言葉を一番いただける職場
雨が降ると、「ジメジメして嫌だなぁ」と思ったことはありませんか?でも、
全員がそう思うでしょうか?新しい傘を買った人はウキウキして雨を待っていた
かもしれません。人によって気持ちの受け止め方は異なるものです。
この世の中は、「出来事」(例:雨が降る)が「感情や結果」(例:ジメジメし
て嫌だ)を作り出すのではなく、その間にある人それぞれの『受け止め方』
(例:新しい傘を使う日が楽しみ)により感情や結果が作られています。これは
「論理療法」の考え方に基づいています。
これをお客様相談室の業務に当てはめて考えてみましょう。
「お客様相談室って苦情ばかりでいや」
「何で私がこんなことを言われなければいけないの?」
こんな愚痴をよく耳にします。長年、相談業務を経験しているので同情したくも
なりますが、そうしてしまうと、自分たちのイライラを増してしまうことに気が
つきました。
そこで私は、
『お客様に使い方を教えて差し上げたり、資料を送ったりする度に“ありがとう”
と言われる。社内でこんなにお客様から直接“ありがとう”と言われる職場は他に
ないのではないか。』
『お客様は時間とエネルギーを使って弊社のいたらないところを指摘してくだ
さっている。十分に聞いて社内に伝えてあげよう。』
というように前向きなの発想をすることで、イライラを静めています。
B鏡を電話の脇に置いて、笑顔を作る大切さ
以前、中国ハイアール社のコールセンターの机には鏡が置いてあり、常に笑顔を
作って応対していると、新聞で報じられていました。
体調が悪かったり、心配事があったりすると、理屈ではわかっていても、どうし
ても前向きにお客さまの怒りを受け止められない時もあります。そのような時
は、自分の気持ちを無理に変えようとするのではなく、中国ハイアール社のよう
に鏡を見て笑顔を作る努力をしています。意識して口角を上げて笑顔を作ると、
不思議なことに少しずつ気持ちがウキウキしてきて、次の電話に明るく出ること
ができるようになりました。
これは「行動療法」の考え方に基づいています。たとえば、人前で話しをする
時を考えてみましょう。人前に立つだけであがってしまう人がいます。心の中で
「あがらない、あがらない」と自分に言い聞かせることで“あがる”ことを意識し
てしまい、余計にあがってしまいます。あがってしまった時は気持ちを制しよう
とするのではなく、これから話をするその内容に集中することで、あがることか
ら開放されるというのです。ハイアール社の例も、笑顔を作るという行動から気
持ちを切り替えていくことの事例と思います。
お客様相談室は、お客様の声を現在や将来の商品・サービス等に活かしていく
ために、会社の耳となってそれらを伺う部署と思います。そのためにも、クレー
ムと上手く付き合い、イライラを静めて、本来の重要な役割に集中できるよう、
自分をコントロールすることが大切と思います。
自分の心のメカニズムを知ってコントロールし、お客様(自分以外の全ての
人)の気持ちを察して行動(発言)することは、公私にわたってCS(Customer
Satisfaction:顧客満足)を高める方法の1つではないでしょうか。
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