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”察する”ということ

吉村 功士






いつも行くコンビニで、店員が2人います。
ひとりはてきぱきとしています。
もうひとりは丁寧ですがゆっくりしています。
朝の忙しいとき、私はてきぱきとした方のほうのレジに向かいます。

たまに行く和菓子屋さんで、ものすごくゆっくりで丁寧な店員さんがいます。
笑顔も柔らかな感じです。その店ではお客様にお茶を出したりもしますし、店から出るときもお見送りをしま す。
少し照れくさいところもあるのですが、悪い気はしません。
帰って饅頭をほおばるときに、気分的にも「ああ、和菓子を食べてる、一息ついてる」という気になってきま す。

先日たまたまこのコンビニに行った後、すぐに和菓子屋さんに行く機会がありました。

それで気付いたのですが、私はコンビニで、丁寧な店員に対して、内心イライラしていました。ところが同じく 和菓子屋の丁寧な店員にすごく好印象を持っていました。

私は驚きました。その時は別に急いでもいなかったのです。ということは、無意識のうちにコンビニは速いもの で、和菓子屋はゆったりしているものという”常識”が自分の中にあったのです。

帰りの車の中で考えていたのですが、さらにむつかしい事に、同じ私でも、急いでお供え物でも買いに行かない といけないときはどうでしょう?私はわがままですからきっと「こっちは急いでるのにお茶なんかいらない」と 思ってしまうにちがいないと思います。

私のようなわがままなお客様を何人も応対しないといけないのですから店員さんは大変ですね。
全ての人に好印象を与えるのは不可能だと思います。
私は、「全員は不可能だけれどもできるだけ”正解率”を高めるにはどうしたらいいのだろう?」と考えまし た。
数日考えましたが、今のところ出ている答えは、「来るお客様によって置かれている状況や求めている気持ちは 違う。それぞれによい対応をするには相手の状況や気持を”察する”力が必要なんじゃないか?」ということで す。

例えばお店に駆け足で入ってこられていないか?時計をちらちら見ていないか?会話(店員だけでなくお連れ様 や携帯電話の相手も含む)でそういうことをおっしゃっていないか?悩まずあっさり買うものを決めていないか ?動きや返事がせかせかしていないか?など、相手の状況や気持ちを察する機会はいくつもあると思います。こ れらを「さりげなく」見ておけば、それに応じた対応ができる確率がアップします。

これらは店員でなくても人間として社会生活を営んでいく上で当たり前のようにやっていることなんですね。 でもこうしたお客様の、「無言の、暗黙の要求」、とそれに応じた「間(ま)、タイミング、スピード、態度、 言葉遣い」というのは非常にむつかしく高度なものだとあらためて思います。

何が一番難しいのかというと、お客さまと同じように、店員の”感性”(=察する力?)も人によって異なるこ とだと思います。同じ状況を見ても、察し方が違ったりします。また、これらを指摘したり、教育したりするの も本当にむつかしいと思います。多分ほとんどの場合、気付いていない相手に対してただ言うだけでは「ああ、 そうか」という風にはならないと思います。また意見が分かれることもあります。指摘した相手に、逆に「そこ まで気にしなくてもいいんじゃないか」と言われる場合もあります。
企業のCSでもこういう感性の部分が、一番遅れているし、苦労しているところだと思います。
これをやっている企業「だけ」とは残念ながらいえませんが、これをやっている企業はやっぱり伸びています。

口先で、なんとなくCSをやっているところは大抵組織の内部がギクシャクしてきます。企業として大きくなれ ばなるほど、そこに関わる人々の感性のズレなども多くなり、その企業のCSの理念や方針、行動、判断が複雑 化してきます。それを一本化していくのはコストや労力、教育の面で大変ですが、きっとそういうところからC Sの最前線にいる店員の応対も、お客様も気持ちを汲めたり、元気だったり、情報が行き届いていたり、逆に矛 盾や無理の押し付けとなってイライラしてしまったりと、変わってくるのでしょうね。

個人のレベルで考えても、これからはCSを理解し体現できないと、「よい働き手」にはなれない時代が長く長 く続くと思います。
お客様はどんどん”わがまま”になっていくでしょう。私を含めて。
でも、「お客様も明日は働き手」です。こういう時代だからこそ「相手の察する力に気付くことができるような よいわがまま屋さん」になることがものすごく重要な気がします。 ところで振り返って考えてみますと、こういう相手の状況や気持ちを察するというのは、昔から日本人の遺伝子 や日本の文化に根付いた、一番特意とするところだなあと思いました。 CSや教育を日本から考えるというのもこれからのポイントだなあと強く感じたのでした