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競争と顧客満足の向上
手島 伸夫




不況、失われた10年、といわれる中で、単なるデフレスパイラルではなくて日本の 衰退化が起きていると指摘されている。
その処方として護送船団方式から競争原理への各業界の再編が叫ばれ、規制緩和 や民営化に日本再生の活力を求めようとする動きと、既得権益を守り抜こうとする 政治ドラマが永田町付近で行われている。

一足先に、経営内容の向上を目指して民営化分割された旧国鉄関係では、JR各社 によるさまざまな競争が行われサービスの向上が目に付くようになってきたのは利用 客にとってはうれしいことである。

先日、金曜日に名古屋に出張した時のことである。金曜の夕方の名古屋から東京行き の新幹線線は単身赴任の帰宅と重なって「指定席」もとり難い。大阪のように始発も ない ので、慌てて飛び乗ると自由席で2時間弱立ちっぱなしになる危険性がある。

その日は、5時過ぎに「みどりの窓口」で「禁煙席」をゲットして、ホッとした。並 んだ客に対して「長らくお待たせしました!」と窓口の担当者が一人一人挨拶をして いるの に、何か心が和むものを感じた。(旧国鉄のではなかったことであるが、そういう経 験を覚え ているのは昔の人の部類に入ってしまうのかもしれない)

新幹線は、やはり超満員!! 「指定席を取ってて良かった。さてビールを飲んで寝 ながら帰るか」と思っていたら、斜め前の指定を持ってない年配の女性客が、若い車 掌に 何かゴチョゴチョ言い訳みたいにしていた。そうしたらその車掌が空いている席の情 報を 教えたらしくその女性は、そちらに移動して車掌にお礼を言っているので一件落着の よう だ。

静岡あたりを過ぎたころに、反対側にいた若い二人が、ごそごそ動いて新聞紙を床に 敷いている。靴を脱いでリラックスするのかとチラリ見たら、また巡回に来たその車 掌が、何かあわてて床を拭きだした。

水がこぼれて、反対側の座席にまで流れ出したのである。
その車掌の動きがすばらしかった。こぼした若い女性が「すいません」と恐縮する のを尻目に、「すぐきますから」といって、どこかに行ってペーパータオルの束を 持ってきた。そうして、拭き掃除よろしく、四つん這いになって椅子の下までを 一生懸命に拭いたのだ。

車掌もそんなことをするのだと見ていたが、かばんを床に置いている客には、「水が 流れていますから、かばんを上に・・・」と注意を促していた。

たったそれだけのことであるが、競争原理が「顧客満足」を推し進めている現場に出 会ったように思った。