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男と女の意識構造改革」男女共同参画社会の視点から
〜恵泉女学園教授 大日向雅美氏の講演会に参加して〜


高橋輝子

  みなさんは「男女共同参画社会」という言葉をご存じですか?最近ではマスコミ等でも取り上げられ、よく耳にするようになってきたと思います。
  これは、男性も女性も、職場や家庭、地域において「対等」な立場で参画できる社会の実現を意味しています。 世界では1945年の「国連憲章」で初めて男女平等がうたわれ、日本においては、それから40年後の1985年「女子差別撤廃条約」に批准したことで、 父系優先の国籍法改正、育児介護休業法の制定など男女平等の社会システムが整備されてきました。
   ではなぜ、今さら「男女共同参画」を掲げなければいけないのしょうか?
それはこの「男女共同参画」に対する日本人の反応が無関心であり、無理解であるからです。このことを国際的なデータである 「人間開発報告書」(2001年:国連開発計画)が明らかにしています。人類の進歩を測る人間開発指数「HDI」(注1)は世界で9位と上位であるのに対し、 女性の政治経済への意思決定参加を測るジェンダー・エンパワーメント「GEM」は31位と大きく後退しています。先進諸国と比べても日本と韓国だけが女性の社会参画が 大きく遅れているのです。ちなみに、アメリカは「HDI」が6位、「GEM」が10位となり、「HDI」と「GEM」のトップはともにノルウェーとなっています。
   このように男女平等の社会システムが整備されてきても、私たちの社会生活ではなかなかそれを活用できていないのが現状です。 その根本には、男女の意識構造改革が必要であることを大日向氏は訴えています。男女を理解する上で、私たちの生活の足元を見つめてみると 「男の我慢と女の不満に隠された現実の矛盾」が存在していることに気づきます。
女性の人生には、就職−結婚−育児−介護の4つの壁が存在し、一方、男性には、仕事と定年の2つの壁があります。 お互いのこの壁の存在を理解し、分かち合うことによって男女共同参画の社会が少しづつ実現に向かうのです。それは例えば、 夫婦間のコミュニケーションであったり、助け合いの精神であったりごく当たり前の行為であったりするのです。
   また、男女共同参画を妨げているもののひとつに「母性愛神話・三歳児神話」があります。これは乳幼児期とりわけ三歳までは母親が育児に専念 すべきという考え方ですが、果たしてこの考え方は真実なのでしょうか。その答えは、「No」です。子供の発育に愛情は絶対不可欠なものでありますが、 それは母親だけの愛情とは限らず、父親だったり他者であっても適切な愛情と家族の協力体制、就労環境が整備されていれば、子供に積極的な発達が見られるのです。 それは母親が育児に専念する以上の発達が子供にみられるとうデータから実証されています。この「母性愛神話・三歳児神話」 からの釈放が日本人の意識に必要と語っておられました。
今回の講演を通して、私は以前、国民生活白書(平成9年)に「国際比較にみる夫の家事負担」(*グラフ参照)というデータが掲載されたのを思い出しました。



日本の夫の家事負担は国際的にみてもぐんと低くなっています。女性の社会進出を一般論では受け入れていても、では、 自分が家事をするかとなると話は別のようで、共働きの夫でも「家事を引き受けるつもりはない」との回答が5割を超える結果でした。
  「仕事と家庭の両立」に対する国や企業の支援策は、十分とはいえないまでも着実に改善されつつあります。男女の意識構造改革で重要なことは、 男性も女性も性差を越えて尊重しあうこと。まさに「思いやりの精神」ではないでしょうか。しかし、これは「言うは易く行うは難し」です。 もっとも人間は「楽しい」と感じることを好み、メリットのあることに対してのみ行動する生き物です。女性にとっては「仕事を続けることの楽しさ」 であり、男性にとっては「家事・育児をすることの楽しさ」を知る事です。仕事の醍醐味・おもしろみは男性だけの特権ではなし、 家事・育児体験は新たな発見と視野の広がりにつながり、これも女性だけの権利ではありません。経済的にみても、女性が家事・育児のために仕事を 中断する事に対する機会損失は1億円ともいわれています。
  時代は着実に変化しています。少子高齢化社会を迎えている日本。私たちの身の回りからできる意識改革を試みてみませんか。

注1:HDI(人間開発指数)基本的な人間の能力がどこまで伸びたかを図るもので、平均寿命、教育水準、国民所得の3つの側面の達成度の複合指数でみる。

注2:GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)女性が積極的に経済界や政治生活に参加し、意思決定に参加できるかどうかを図るもの。 具体的には、女性の所得、専門職・技術職・行政職・管理職・国会議員等に占める女性の割合を用いて算出する。
   HDIが人間の能力の拡大に焦点を当てているのに対し、GEMはその能力を活用し、人生のあらゆる機会を活用できるかどうかに焦点を当てている。