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「もしドラ」考
柄澤 明久



小説の「もしドラ」がベストセラーになっています。この本のタイトルは正式には 「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら」 という長いものです。

この本は、高校2年の女子生徒がダメ野球部のマネージャーを引き受けてしまい、 ドラッカーの著作である「マネジメント」を読みながらそれを実践して野球部を立て直す、 という青春小説ですが、大変面白いものです。
ドラッカーの考えを知ることができ、マネジメントとは何かがよくわかる本です。

この本は、ドラッカ―など知らなかった女子マネージャーが「マネジメント」を読むという筋書きですが、 もし江戸時代の商人が「マネジメント」を読んだら何と言うでしょうか。
きっと「これは我々が行っていることではないか」と言うにちがいありません。

例えばドラッカ―は「マネジメント」の中で「マネジャーにとって必要な資質は才能ではなく、 真摯さである」と言っています。江戸時代の商人は真摯さ・誠実さを何よりも大切にしていました。 それは様々な家訓を見ればわかります。またそれを担保する仕組みとして「押込め隠居」 という制度がありました。

これは遊山にふけるなど当主として不適格と判断された場合、親族や後見人などが協議して、 その当主をクビにして強制的に隠居させるものです。 財産だけでなく身の回りのものまで取り上げて隠居させるのですから徹底しています。

またドラッカーは「人は最大の資産である」と言っています。江戸商人もそう考えていました。 丁稚として少年を雇いいれると、読み書き算盤をはじめとして、 社会人として必要なマナーや生活の基本を教えこんでいきました。 単なる知識教育だけでなく全人格的な教育です。 そして丁稚→手代→番頭というキャリアパスを示し、 その人の生涯を通した育成を行っていきました。

このように江戸時代の商人は高いレベルの経営管理を行っていたのです。その背景として、 ひとつは士農工商という身分制度の中で低い地位に位置付けられていた商人が、 自らの社会的地位を高めるための努力が必要であったこと、 ひとつは江戸時代は教育水準が高く仏教と儒教の倫理観が広く浸透していたからであると、 考えられます。

現在の日本の企業経営は、高度成長を支えてきた終身雇用、 年功序列といった仕組みが崩壊しつつある一方、成果主義などの新たな手法の限界も指摘されていて、 手さぐり状態にあるといえます。そのような中でドラッカーに学ぶのは勿論として、 江戸商人の経営にも学ぶべきことは多々あると思います。