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トロント生活
トロント(カナダ)の不思議な交通事情

田中 慶篤



トロントは、北米中部の五大湖のひとつオンタリオ湖のほとりに位置して、北米西海岸のバンクーバー、 大西洋岸のモントリオールに並ぶカナダ最大の都市です。カナダの首都は同じオンタリオ州のオタワにありますが、 オンタリオ州の州都はトロントにあります。トロントはカナダ最大の都市といっても、面積は東京(23区) とほぼ同じで人口250万人で、広い国土のわりには、 見た目にも東京(23区)と比べると実にこじんまりとした都市です。

今回はトロントの地下鉄を中心に、公共交通機関を紹介致します。
カナダはアメリカと同じく広大な国土(日本の28倍)を保有しているために、西部と東部の主要都市を結ぶ大陸横断鉄道(VIA) がありますが、トロント市内の主要交通機関のひとつとしてTTC(Toronto Transit Commission)があり、 地下鉄電車と路線バス、ストリート・カー(路面電車)で構成されている。
地下鉄は主な路線として、ダウンタウンを底辺にミッドタウンからアッパータウンへと南北の方向に伸びるU字型の路線と、 そのU字型をダウンタウンとミッドタウンの境目付近で横切るかたちの東西に伸びる路線がある。
南北のU字型路線と東西の路線と交わる地点の駅は乗換え駅であるが、東京の地下鉄に比べると、 とてもシンプルな構造をしている。その理由は、主要な乗換駅で朝夕のラッシュアワーといえども、東京の各駅や横浜、 名古屋、大阪など日本の主要都市と比べると、乗客数が格段に少ないことによるものと思われる。
また駅と駅の間隔がとても短く、次の駅が目の前 に見えており、複雑な地下街を通り抜けてプラットホームにたどり着く間に、 地上をまっすぐに歩いた方が早く着く場合が多い。

さて、本題のトロントの地下鉄のどこが不思議なのかというと、先ずは料金体系である。乗車料金はひと駅、 ふた駅或いはなん駅であろうと3ドル(300円前後)である。この料金を東京の山手線を例にとると、 品川から一番遠い位置にある池袋よりも高い。更には、駅で降りてバスや路面電車に乗換えた場合、 或いは逆にバスや路面電車から電車に乗り換える場合でも、駅の改札口或いはバスに備付けのトランスファーチケット(乗換券) を使うと、そのまま同じ料金で利用することができる。例えば、トロント市内からトロント国際空港に行く場合、 リムジン・タクシーを使った場合は、チップ込みで$55かかるが、地下鉄とバスを使えばわずか$3ドルで行くことができる。
また定期券は距離に関係なく月額$121で、シルバー(65才以上)と学生は$90である。 その他にWeekly Pass($36)やDay Pass($10)、回数券などがある。
一般の定期券は、名前や写真など特に使用者を特定するものがないので、家族や友人が使っても問題がなく、 善悪は別にして極論を云えば、例えば誰かが落として無くしたものを誰かが拾って使うことだってできる。 但し、シルバーや学生は買う時に証明書が必要で、しかも写真入りなので、 一般の定期券のように使い回されることはないと思われる。この料金システムは、ひと駅だけのチョイ乗りには向かないが、 遠距離には実に便利である。しかし、裏を返せば近距離の利用者を制限し、相対的に遠距離利用を促しているために、 多額の赤字と税金投入、強いては更なる料金の値上げを招いていると思われる。

車両は昭和40年代の山手線を思わせる超旧式のデザインで、一世代前の中央線の車両のようである。 乗っていても振動が激しい上に、駅で止まる時はガックンと急停止さながらで、 運転が下手なのか車両が古いせいなのかよく分からない。しかも、日本のように停止線できちんと止まることは稀である。
ホームでも車内でも、アナウンスは日本と比べると非常に少なく、「黄色い線の内側で…」とか、 「危険ですから、駆け込み乗車は…」とかは放送しない。ただ、朝のラッシュアワー時には「ドア付近の方は奥へ…」 というアナウンスは良く聞かれます。しかも、ドアの開閉時間が短すぎるようで、特に乗降客が少ない駅の場合は、 次の駅で降りる人は前の駅を出た時点で席を立ち、ドア付近に立っている人が多いようです。
また、走行音が異常に大きく、地下鉄のホームで待っていても、雷の音が近づいて来るような激しさで、 日本の貨物線かそれ以上である。
(※雑誌"Toronto Life"の最新号によると、今秋から最新型の車両が順次投入される旨の記事が、 イラスト入りで紹介されていました。)
最後にもう一つ、トロントの地下鉄のユニークな点を取り上げるとすれば、それは車掌が車両の最後部ではなく、 車両の中間部に乗っていることです。これは真ん中に位置することで、最後部から最前部までを確認するよりも、 前後の安全確認がしやすいことを意図したものであると考えられます。

東京の地下鉄と比べると、料金は高く、快適さも劣りますが、車内はモザイク状の多国籍の人種が乗り合わせ、 色々な言語での会話が聞こえてくるマルチカルチャーの世界と化した電車を、 毎日利用することが私にとってはとても楽しみです。