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場違い

近藤 知子

   

顧客が満足を感じるのは、期待を上回る商品・サービスの提供を受けた時、とはCSの基本として説明されているが、 では「上回る」とはどんな基準で、どんな尺度で計るのだろうか?
迅速・ていねいな対応、行き届いた配慮、確実な技術、等々説明されることばは数多く出てくるが、 現実には必ずしも1つの基準でサービスの優劣は考えられないのでは、と思う。

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先日、家の近くに靴・鞄修理の店が開店した。難しい修理や修復にも対応できるらしい。 たまたまバックバンドの靴のかかとが取れてしまったので、感じのよい外観と、 何より開店キャンペーンのチラシに惹かれて修理を依頼しに入ってみた。そこでいろいろな意味で驚いた。
いつも修理を頼んでいる狭くて小汚い(失礼!でも安くて技術は確実な)店とは違って、 まずくたびれた靴をトレイに乗せてチェックし、カルテを書いて説明してくれた。 これが最初の驚き、え・・・あの、これ、自慢じゃないけどたしか3,000円位だったかな、 カルテなんぞ書いてもらう代物ではないんですが・・・。で、修理にかかる日数は1週間とのこと。
2番目の驚き、かかと修理だけで1週間!?いつもの店なら10分でできるのに。第一、1週間も預けられては、 靴のローテーションが組めない。繰り返すが、この靴は3,000円。1週間かけて修理してもらうほどの代物ではない・・・。
お店の人は私が固まっているのを見て察したのか、結局、翌日仕上げでエクスプレス料金はおまけしてくれることになった。 1泊でエクスプレス扱いになると聞いて3度目の驚き。
お店の対応は終始ていねいで親切なのだが、ていねいに応対されるほど違和感がつのってくる。 ちょうど、ハンバーガーショップに入ったつもりが白いカバーのかかったテーブルに通された時の感じ。 奥の方を見ると、もう1人のお客がPラダのバッグをはさんで、お店の人と話している。そうか、 ここは3,000円の(しつこい!?)靴を持ち込むような店ではなかったのだ。分相応に、いつもの小汚い店で、 汗かきながら動き回っているおじさんに頼めば良かった・・・。
が、ここまで話が進んでしまうと抜け出すわけにもいかない。これ9,800円の靴です、 という顔をしてごまかし通すしかない。あぁ〜場違い(汗)。

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振り返れば、冒頭に述べたように、期待を「上回っていた」サービスが、違和感や気後れを招いてしまったのは、 上回る/下回る、の基準がお店と私の間でずれていたからだろう。
こちらは靴の値段に見合う対応、質より時間重視のサービスを求めていたのだが、お店は店舗のポリシーに従い、 おそらくマニュアル通りに丁寧に対応し、質を重視していることを伝えようとした。それがかえって、気の毒な靴の居場所がない、 場違いの感覚につながってしまった。
サービスは、受けるまではわからない要素が多い。このような違和感を生じないためには、 提供する側のサービスと提供される側のニーズのプロフィールを、事前にある程度合わせることが大切ではないかと思う。
提供者の方は、理念・ポリシーは店の構えなどで何となく顧客に伝わるが、価格や納期など、 顧客にとって判断基準となるサービスの基本情報も明示することが必要だろう。
顧客の方も、全てにおいて優れたサービス、というものに期待を委ねるのではなく、 相反する基準を包括したプロフィールとしてサービスを捉え、 提供者のサービスのプロフィールと自らのニーズのプロフィールを重ね合わせて比較すれば、 少しは違和感を防げるのではないだろうか。