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品質(Quality)は誰が評価するのか?
(トヨタ自動車のクレーム問題について考える)

島村 治雄



1.クレームの原因をCSの視点で考える
トヨタ自動車のクレーム問題はグローバル化し企業価値を大幅に下げるところまでに至りました。 リコールは今までも自動車会社だけでなく電機メーカーにも多く、 品質のばらつきなどの理由で機械製品には避けることが出来ない問題であり、 各社ともリコールを届け出て対応しているのです。それでは、 なぜ今回のトヨタ自動車はこのように大問題に発展したのでしょうか。
現地の条件など工場では検証できない問題もあり、原因を究明するのに時間がかかったという理由もあるでしょうが、 小生は経営上の基本的な問題が存在していたと考えざるを得ません。 すでに多くの人がコメントを出していますが、CSの視点から意見を述べてみます。
トヨタ自動車のクレームは昨年秋から続けて発生していますが、次の四件にまとめることが出来ます。

@ アクセルペダルがフロアマットに引っかかりアクセルペダルが戻らかった
A アクセルペダルに結露が生じ凍結することでアクセルがゆっくり動く、または動かなくなった
B 電気回路からABSに代わる際に油圧の始動が遅く0.6秒のずれが生じブレーキの効きが甘くなった
C アクセルが効かなく急加速した(?)

この4つのクレームの中で、Cについては実験の上で現象が発生せず、 アメリカのメディアのねつ造も報道されるなど疑問点が多く、今後の究明に待つ必要があります。
しかし,それ以外の三件については、トヨタ自動車の対応の遅さが問題を大きくしたといってよいでしょう。 さらに結論に至る過程で、 メディアに発表されたトヨタ側のコメントによっていっそう問題をこじれさせているのです。
当初のトヨタ側のコメントは、@については、フロアマットを正しく敷いてほしいという発言でした。 Bについては担当常務がテレビの前でブレーキを踏む際のたんなる感覚の問題と切り捨ててしまっています。 いずれも使用者の問題と片付けてしまったのです。その後自社内で調査を行い、リコールを申し出たのですが、 Bについてはリコールの発表のときも欠陥と指摘する記者に対して歯切れの悪い回答になっていました。 最終的にアメリカ議会の公聴会に豊田社長が出席して謝罪し、 さらに3月18日の日経新聞で豊田社長とのインタビュー読むと、 2002年以降の急激に生産量が伸びで人材育成が遅れたことを反省して、 今後のトヨタ自動車は台数の拡大より品質の向上を徹底するとして具体的な方策を発表しました。
日経ビジネス2月15日号ではこの問題について次のような主張をしています。
『品質問題や事故が起こった時に、「当社の車の品質は完璧だ。それは運転者の運転の問題だろう」 と主張する傾向がトヨタ本社の一部には根強かった。他社でも同様な失敗はありますが、 品質に自信のある企業に陥りがちな「傲慢な対応」という落とし穴です。 ・・・今回の問題は開発を中心とするモノ作り現場の能力を超える急激な変化と、 主に本社に見られた品質過信ゆえの傲慢という風土の問題の複合的な結果と言えなくもない。』
1990年代から、TPS(トヨタ生産方式)について多くの本が出版され、ジャスト・イン・タイム、なぜ、なぜ、 なぜと三度追求する、ラインで問題が起きたら担当者がすぐにラインを止めて原因を究明する、 など非常に優れたトヨタウエイを確立したのですが、 今回の一連のトラブルを見るとTPSの根底になるものがおろそかにされてきたのではないかという疑念がわいて来ます。 豊田社長は18日のインタビュー記事で、 今回の品質問題を機に当社が本当に顧客第一だったのかどうか気づかされたと述べています。 この問題をCSの視点で解明します。
まずQuality(品質)の良しあしは誰が決めるのかという問題です。 これについてはアメリカゼロックス社が日本製品に押されて1976年に市場シェアが80%であったものが82年13% までおちたときに、内部研修を徹底して行い意識改革をしましたが、その際にQualityを次の通り定義しました。 『クオリティは自社が評価するのではなく、顧客が評価するものである。先ず顧客評価に耳を傾けるべきである』 このQualityの定義はCSの基本的考えにもなっています。ちなみにゼロックス社は89年に市場シェアが46%に復活し、 同年米国マルコム・ボルドリッジ経営品質賞を受賞しました。
今回のトヨタ自動車は日経ビジネスでの指摘の通り、品質は自社で決めるものであるという内向きな、 誤った考えが社内通念としてあったと思われます。1980年代からグローバル企業としてTPSを主軸に発展したのですが、 組織体制を市場に合わせる努力や、 顧客に密着し顧客の視点で考えるという企業文化を作る努力が薄くなったのではないかと思います。
また、CS(顧客満足)そのものは顧客の持っている製品やサービスに対する期待値に比較して、 受け取った製品やサービスの品質が良かった場合に生ずる心理的な満足感です。 心理的満足ですから期待値はどんどん上がっていきます。当日受けた満足は次の日には当たり前のものに変化します。 このように顧客の満足は日々変化していくのですから、常に顧客からの情報をウオッチする必要があります。 特にトヨタ自動車のように世界のトップに上り詰めた企業に対しては顧客の要求は一層厳しいものになっています。 顧客が持っているトヨタブランドの期待値をしっかりと受け止めて製品・ サービスの向上を図ることが求められるのですが、 上記一連のクレーム対応から考えるとブランドを維持する努力を失っているとしか考えられません。
次いで、少し対象を絞ってクレームについて考えてみます。 クレームには部品のばらつきやシステム上のトラブルによるもの、設計上の問題など社内で予測が出来て、 それによって対応できるものだけではありません。現場の自然条件により特別に発生するトラブル、 様々な条件が複合してまれに発生するトラブル、設計・製造時には予想もしなかったトラブル、 など全く想定外のクレームが最近多く発生しています。 最近は想定外のクレームにより大きな問題になっていることが多いようです。 具体例としてはパナソニック社(当時松下電器) のファンヒーターのゴムの劣化による一酸化炭素中毒死亡事故があげられます。 製造後15年以上経過していておりメーカーとしては長期の使用を想定していなかったのですが、 部品交換の必要を明示していなかったために、人命にかかわる問題としてリコールを行う必要が出てきたのです。 今に至ってもその製品のリコールを進めています。家電メーカーは製品保証だけでなく、 使用者の管理責任にも言及する必要が出ています。 社会的に使用者の管理責任より製造責任を重視するように考えが変わってきているのです。 豊田社長は「道は地域ごとに違う」という言葉で想定外のクレームに対しての意識を改めるように指示を出しています。 グローバル企業として、今後は想定外のクレームが出ることを覚悟してその対応策をつくることが必要と思います。

2.トヨタ自動車の経営改革への提言
3月18日付の日経新聞に掲載された豊田社長のインタビューで述べられた経営改革は十分なものでしょうか。 品質保証幹部を世界各地に配置しグローバル品質特別委員会を構築するという組織改革。 顧客情報が経営陣まで届く仕組みを作り品質保証の人材センターを世界各地に設置する。などが説明されています。
しかし、グローバル企業として、 自動車業界のリーダーとして一番必要なことは顧客の視点を全組織に入れて、 常に顧客視点で業務を行う組織にすることであろうと思います。
つまり顧客を中心におく企業文化を構築することが必要です。
故佐藤知恭は今後の企業に必要なこととして『CS経営は、全社のあらゆる部署において、 顧客の視点で業務を徹底的に洗いなおすことにより実現できるものである』と述べられています。 これこそ企業文化としてCSの視点を入れることに他ならないのです。
トヨタ自動車はレクサスを日本で販売する際にセールスマンにCS意識を研修により導入しております。 しかし今回のクレーム事例でわかるように顧客に接する部署だけにCS意識を導入することでは 顧客の満足を得ることが出来なくなっています。
アメリカ議会の公聴会にトヨタの内部文書として、『あるクレームに対して100万ドル節約(save)した・・・』 という意味の書類が提示されました。クレームを起こすことそのものが顧客の信頼を損ねており、 それによる損失が計り知れないのに、予算100万ドル節減できたと考えることこそが社内にしか目を向けておらず、 顧客の視点が欠如していると言わざるをえません。
企業文化に顧客視点を入れて変革するとは言うに安く、実行することは難しいことであることはわかります。 しかし、 トヨタウエイを作り出したトヨタ自動車ですから困難を乗り越え新しい企業文化を作り出すことが出来るはずです。 社長以下全員で企業文化の変革を進めたいただきたいものです。