手島 伸夫

<起きそうな事件、ただし以下は架空の話です>
20XX年○月○日、△△新聞の3面記事に小さな記事が載った。
「新縦浜駅ビルで、子供が自動ドアーに頭をはさまれて、病院に運ばれたが死亡が確認された」
というのである。
(新聞を見ていたAさんの独り言)
また、回転ドアーに子供が挟まれたの?まったく、六本木ヒルズ以来、まったく懲りていないね。
IRは何をしているのかね、呆れるね!
えっー!回転ドアーじゃなくて、単なる自動ドアーなの!それじゃあ、親は何をやっているんだい、
まったく近頃の親は!
(たまたま現場にいたBさんの証言)
私は、ここからあるいて15分のマンションに住んでいるのですが、
ちょうどその現場に居合わせたのです。上の階のビックカメラに行くので、
エレベーターを待っていたのですよ。あそこは、1階というか、地下というか、あの駅ビルは、
どちらだかよく分からないんですが、そこのエレベーターですよ。
「ぎゃー!」という短い悲鳴で、振り返ると、男の子が自動ドアーに頭を挟まれた後で、
ゆっくり倒れるところでしたね。
私は、事態がよく分からなかったですよ。だけど、その後、
開いたり閉まったりしている自動ドアーを見て、
ようやくそこに挟まれたのだということが分ったのですよ。
というのはですね。壁もガラス、ドアーもガラスで、そこに物が挟まれる空間があるとは、
気がつかないんです。ほんとうに!
特に、あそこの出入り口が他にもあって、他のドアーから入ってきた親は、
その危険に気がつかないでしょうね。大変な都会の死の盲点があることに、
私も始めて気がつきましたよ。
もちろん、それからが大変で、母親は気が狂ったように叫ぶし、父親は
「救急車を、救急車を、救急車を」と繰り返すだけですし、ええ〜、
私が携帯で119番したのですが、そこが1階なのか、地下なのか、よく分からないのですが、
119番は、「はっきりしてください」というばかりで、こちらも、集まってきた人たちに、
「ここは1階?地下?」と聞いたのですが、周囲の人は首をひねるばかりで、
まったく困りました。結局、こちらも、「タクシー乗り場だから、来ればわかる!」
と怒鳴り返していましたよ!
(通行人Cさんの証言)
「ああ、あそこの自動ドアーは、前にもちいさなお子さんが挟まれて、上の階の年配のおじさん店員に、
僕が危険だと言ったのですが、改善しないんですよね」
「とうとう、亡くなったんですか。」
「かわいそうに!!」
「その時も、おじさん店員は、『はあ〜!』とかいうばかりで、まったく!」
「大体あそこのビルはおかしいですよ!」
「一度行って、みてください。」
「新幹線の駅ビルで、遠くからの旅行者が多いのに、必要な表示がほとんど無いのですよ」
「新幹線を降りて、アリーナ方面に行く人が8割ぐらいじゃないですか」
「だけど、エスカレーターが無いんですよ」
「実は、全く無いのじゃあなくて、本当は階段のちょっと手前右側にあるのですが、表示が無いから、
みんな気がつかないで直進して階段を歩いて降りるんですよ。面白いですよ」
「もうひとつ、狭いエスカレーターがあるでしょう。だけど、あれを降りると、
半地下に降りてしまうでしょう。地下鉄に乗る人は、いいけれど、
何人かに1人はまたエスカレーターを昇って、戻るんですよ、地下に降りてしまって、
間違えたとおもうのでしょうね。」
「表示がしっかりしていりゃ、問題無いのにね、おかしいよ!」
「でも、おもしろいから、あんたも行って見たら!」
(建築家Dさんのつぶやき)
「ああ、この間できたばかりの新縦浜駅ビルね。」
「もともと、そういう設計思想なんですよ。一般の人は、分かりにくいとかいっているけれど、
わざと迷うようなレイアウトにして、顧客の滞留時間を長くするんですよ。」
「だけどあそこは、新幹線の駅ビルだからね。迷わせていたんでは、新幹線に乗り遅れるよね。実は、
僕も始めていったとき、3階かな、2階かね、店舗部分から改札に行こうとしたら、案内版が無くて、
うろうろしたよ!上から降りるとあそこで逆回りになるじゃないですか。あれは、さすがにひどいね。
慣れないと迷うよ。」
「だけど、あれは設計者がやっているんじゃなくて、上からガチャガチャ圧力がかかったとか、
いう話じゃないかな!」
「え〜、それは、「IR東」からの圧力かって?あそこはね、「東」の線路も入っているけど、
「西陸」だよ。そこは、間違えちゃいけないよ。あの「東」と「西陸」の二つは仲が悪いんだから。」
「篠原口の「東」の改札口の不便さを見てごらんよ、「西陸」も、意地悪のやりすぎじゃないのかね。
「東」の線路の改札は、「東」に貸してやればいいじゃあないですかね。だけど、
「東と西陸の競争」は、顧客を全く無視した競争で、ナワバリ争いだからね。
ああ、建築のほうから言うと、今は「ハートビル法」の時代なのに、
エスカレーターの位置もわからないなんて、最低だね。建築屋の失敗じゃなくて、
もっと上の鉄道会社のもんだいでしょうね。」
(タクシー運転手の不満)
「新しい駅ビルができて、本当に不便になったね。ほら、
客待ちをしている車は左で泊まっていなくちゃならないから、車がクロスするだろう。気分悪いよね、
運転手にとっては!でも、もっと困るのは、タクシーを降りた所に、エスカレーターの表示が無いから、
お客さんは、当然、先に歩いていくわけですよ。そうすると、
篠原口に行く地下道の方に行ってしまって、新幹線に乗れないんですよ。
馬鹿な話ですよ!タクシーで新縦浜に乗りつける人は、大体時間がないから、タクシーに乗るんだよね。
それが、焦ってウロウロしているのを見ると、気の毒になるよね。え〜っ!どうして、
お客さんに一言言わないんだって?そりゃ!いちいち言ってたら、「そんなの分かっているよ!」って、
睨まれるだけだよ。挙句に、運転センターにクレーム電話を入れられて、「お客に指図するな」って、
言われた運転手がいたよ。」
(近くのM銀行員の話)
「ああ、あそこの自動ドアー、知ってますよ。以前にうちの女子行員が、危ないと言っていましたから。
うちのATM機の所の自動ドアーは、ほら、安全板がありますよね。当たり前でしょう。
信用が第一の銀行ですからね。」
「ここから、あの事故の現場まで、歩いてたったの32歩ですよ。
IRはお客さんが困っても直さないですからね」
(IR西陸のスポークスマンの話)
「あのビルは、当社ではなくIR西陸ビルサービスのものですから、関連の別会社です。
当社としては、コメントできません。」
「関係ありません、出てってください!」
(子供を亡くした親の話)
「だいたい、マスコミの人は、こんな時に来て、どういう気持ちなんですか。こちらが聞きたいです。」
「もっと早く危険を報道するべきじゃあないのですか。それが、仕事でしょう!」
「今更、何も言うことはありません・・・。」
<結論:作家・村上春樹氏の長編小説から>
『教えなくては分からないことは、教えてもわからない!』
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