TOPICS 321   BACK

「残す」配慮
〜ところ変われば

近藤 知子



例えば、あなたが知人の家庭の食事に呼ばれて、食卓一杯に食事が出されたら、ほとんどの方は、残さず食べて 「美味しかったので、全部頂きました。」とお礼を言うことでしょう。

家庭でも同じこと、私も小さい頃から、出された物は残さず食べなさい、と言われて育ちました。食事を残さず頂くことは、 喜んでもらえるメニューを考えてくれた人、真心込めて食事を作ってくれた人への感謝の気持ちを表すことで、礼儀なのです。

では残したら・・・食事が美味しくなかった、という暗黙の意思表示になり、せっかく作ってくれた人、 招いてくれた人をがっかりさせ、礼儀を欠くことになってしまいます。

しかし世界の風俗習慣は様々、ところ変われば、残すことが礼儀という国々もあります。 私がかつて住んでいたタイもその一つでした。タイ人の家庭の食事に呼ばれると、 たいてい料理は大皿に山盛りになって出てきます。主人はお客のために取り分けることはせず、 お客はカレー皿くらいの大きさの取り皿に好きなだけ料理を取って、同じ皿に好きなだけごはんを盛って頂きます。
大皿の料理が空くと、わんこそばよろしく同じ料理のおかわりが盛られてきます。ここでは大皿を空けるのは 「料理が足りない」ことの意思表示でもあるからです。そしてそろそろ腹八分目かな、というところで、大皿に少し残して、 食事を終えるのが礼儀です。

ここでは食事を残すことは「美味しかった。食べきれないほどたくさん出してくださって感謝します」という気持ちを表します。 残しては失礼、と思って無理して食べるのはかえってマナー違反なのです。

食事を残すことにはもう一つの意味があります。残り物やおかわりとして取り置いていた分は、一旦下げられた後、 子どもたちや同居する親戚(ふつうはお客が直接知っている主人以外、つまり子どもや同居する親戚は一緒に食事せず、 別室で食べることが多いです)、お手伝いさん、門番、たまに隣家の人たちへのおすそ分けとなります。食事を残すことは、 おもてなしの場に出られない人々に対する、お客の配慮でもあるのです。

外食の時も、残り物を持ち帰ると言えば、お店も快く袋に包んでくれます。家で留守番している家族、 住み込みのお手伝いさんへのお土産になります。

おもてなしを受けるお客が、主人だけでなくおもてなしの場に出られなかった人々に対する心遣いを思うたびに、 この国の人々のさりげない優しさを見る思いがします。
皆さん、タイで食事に呼ばれたら、くれぐれも残すようにしてくださいね。