高橋 輝子

次世代育成支援対策推進法、通称「次世代法」を皆さんはご存じですか。
2005年4月の施行から、企業は、仕事と育児を両立しやすい雇用環境を整備していくことが社会的責務となりました。
育児休業や短時間勤務制度の導入など企業にとって負担増に感じられる面も多いと思いますが、
社員のモチベーションアップや企業のイメージアップなど中長期的な企業経営におけるメリットを考え、
主体的な両立支援策が望まれています。
2005年の人口動態統計(厚生労働省)によりますと、
一人の女性が生涯に産むと推定される子供の数を表す合計特殊出生率は1.25と過去最低を記録しました。
これは2004年の1.29を大きく下回り5年連続で出生率が下がり続けたことになります。
急速な少子化を放置しておけば我が国の経済社会に深刻な影響を与えることが懸念されています。
こうした現状をくい止めるため国は以前から様々な対策を講じてきました。
エンゼルプランや新エンゼルプラン、待機児童ゼロ作戦、少子化対策プラスワン・・・。
1990年以降、政府が打ち出した少子化対策ですが見るべき効果はほとんどありませんでした。
また、仕事と家庭の両立に大きな貢献を果たすとされた育児・介護休業法。
しかし、厚生労働省の調査で明らかになったのは、第一子の出産を機に退職した人が7割を超え、
一貫して就業継続している人は23.0%に過ぎないという結果でした(2003年出生前後の就業変化に関する統計)。
育児・介護休業法も従業員にとって使いづらい制度と化していました。
ではなぜ、こうした少子化対策が機能しなかったのでしょうか。
大きく3つの理由が考えられます。
1つは、今までの両立支援策が「働く女性のための施策」と位置づけられていたこと。
2つ目は、企業にとって両立支援策は導入コストが高いと考えられ、あくまでも福利厚生施策の一貫であったこと。
3つ目は、少子化対策として子育て支援策のみに集中し、働き方全般の見直しが行われなかったことです。
以上のことから少子化対策は男性も含めた労働者全般の問題であり、働き方全般の見直しは福利厚生としての「守り」
の施策ではなく、経営戦略を実現するための「攻め」の人的資源管理と位置づけていくことから始めなければなりません。
さて、ここで重要になってくるのが「ワークライフバランス」という考え方です。
これは企業が仕事(ワーク)と私生活(ライフ)の調和を図り、双方を充実させる働き方の整備や価値観の醸成に取り組むことで、
従業員にとって安心して長く働きつづける職場を実現させます。
働きやすい職場環境の整備は従業員の「やる気」や「働きがい」を引き出し企業経営にプラス効果をもたらすのです。
これらを制度面から後押ししているのが「次世代法」です。
「次世代法」とは、今の少子化の流れを変えるため、改めて国と地方公共団体そして企業等が一体となり、
従来の少子化対策を見直し実行力のある取り組みを推進するために成立した法律です。
大きくは@男性も含めた働き方の見直し、A地域における子育て支援、B社会保障における次世代支援、
C子供の社会性の向上や自立の促進という4つの柱に沿って総合的な取り組みを推進することになりました。
「次世代法」が企業に求めているのは、仕事と育児を両立しやすい雇用環境を着実に整備してもらうことです。
そのために、従業員301人以上の企業には環境整備に向けた「行動計画」を都道府県労働局に届け出るよう義務づけました
(300人以下の企業は努力義務)。
「行動計画」では@計画期間、A目標、B目標達成のための対策と実施期間の3点を具体的に示す必要があります。
「次世代法」は10年間の時限立法ですので、2015年3月31日までに複数の「計画期間」を設け、
関係法令で定められている基準を少しでも上回る目標の設定と具体的対策が求められています。
厚生労働省の調査では人材育成を重視し、仕事と家庭の両立支援が手厚い企業は、
社員のやる気や経常利益が高いという結果もまとめています。
企業にとっては、まず制度利用の実践企業となり、その効果を体験してみることをおすすめします。
従業員にとっては、自社の「行動計画」の内容を確認し、
チェック機能を果たすことで職場環境の改善に努めて頂きたいと思います。
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