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マニュアルからの一瞬の脱出

広川 友美



この店にやってきて半年が過ぎました。開店から20年が過ぎたこの店は、お店で働いているパートさんも、 補充はものすごく早く正確に仕事をこなすのに、簡単な挨拶が出来ない方がほとんどです。15年前、 日本中が売れていたときには、挨拶よりも、補充が一番大切だったのかもしれません。

消費者アドバイザーをするようになって、他社から接客外部調査のアルバイトの話があるように、この店でも時折、 外部の調査員が入ります。実際に、スーパーで働いているため、残念ながら、他社の外部調査員は断られました。

今回、調査結果、基準を満たした挨拶が0点だったのには、びっくりでした。
基準というのは、時間帯別に挨拶がついているか、とか、笑顔が出ているか、とかそういった店独自の項目です。

「もう一度、挨拶を見直そう」という掛け声の下、早速、私もマニュアル通りやってみることにしました。 とても簡単で、「いらっしゃいませ」のあとに、時間帯別に挨拶をつけるのです。

「いらっしゃいませ、おはようございます。」
「いらっしゃいませ、こんにちは」
「いらっしゃいませ、こんばんは」

とても簡単ですが、「いらっしゃいませ」の後がなかなか、私も含めて、他のパートさんも続かないのです。

「いらっしゃいませ、お待たせしました」

なら大抵の方はすんなり言えるのですが、残念ながら、田舎の衣料品のスーパーで、レジをお待たせすることなど、 ほとんどないのです。

最近やっと「いらっしゃいませ、こんにちは」と自然に出てくるようになりました。

そこで気がついたことは、「いらっしゃいませ」だけだど、無言のまま、係員は、ピッという登録作業に移ってしまうのですが、 「いらっしゃいませ、こんにちは」というと、ほとんどのお客様が「こんにちは」と返してくれるということです。

この次のマニュアルは、登録作業になっているので、「こんにちは」と返されると、すこし、間が開くのです。挨拶を返されると、 何かトークをしなくてはならないような、不思議な間があり、無視をして登録作業は出来ないので、 つい接客の笑顔でごまかしてしまうのです。マニュアル通りの挨拶「こんにちは」後の、マニュアルにはないお客様からの 「こんにちは」、この予想外の、「こんにちは」のおかげで、マニュアルから一瞬だけ、開放された気分になります。